と同じように空を飛びたい!

それは太古の昔から人々が感じる欲求だった。
それを約200年前にモンゴルフィ兄弟が「熱気球」によって、そして約80数年前にライト兄弟の「飛行機」によってかなえられ、現在ではジェット飛行機によって身近な交通機関として利用している。

しかし、人類最初のあこがれ「鳥のように飛びたい!」という欲求とはかけ離れ、「風を感じながら飛びたい」というさらなる欲求が出てきた。
そこで出現したのが「ハンググライダー」だ。

「ハンググライダー」の出現により、より簡単な装備で風を感じながら、自分の力で空を飛ぶことが可能となった。
その後、さらに簡単な装備で空を散歩することが可能となった。

それが、「パラグライダー」だ。
「パラグライダー」はパラシュートに似ているが、布で作られた柔らかい翼をもったグライダーである。
飛ぶための山登りの際にも、ザックに全てを詰め込むことができ、より手軽に空を飛ぶための翼を手に入れたのである。

パラグライダーはパラシュートから生まれた

傘型の丸い形だったパラシュートは1970年代の初めにはコントロール性能を高めたフォイル型(現在のパラグライダーのような形)に変わり、そのパラシュートを使いヨーロッパの登山家が山からジャンプしたという冒険を行った。 1978年のことである。

この山からのテイクオフのニュースは多くのアルピニスト達にとって非常に興味のわく話であった。なぜなら、アルピニストは山に登ることが目的で、下山するのは"おまけ"の様なモノであるからだ。下山するのにパラシュートで降りることができれば、ナント楽であろうか。と考えるのは当然であろう。

あっという間にアルピニストの間で、この"遊び"が流行する。そしてこの手軽で鳥の気分を味わえる「スカイスポーツ」はヨーロッパ・アルプスの国々に伝わり本格的なパラグライダーへと変身していく。

日本には1986年頃上陸し、日本人の"ヒナ"たちに伝染しはじめた。
それから10数年たった今、現在の機体は当初のモノとは比較にならない位高性能で、かつ安全なモノと変化した。その結果、多くの人たちに空に浮く浮遊感を味わせてくれるレジャースポーツの一つとなっている。

パラグライダーにも様々な種類がある。

パラグライダーの一般的な楽しみ方は山の斜面から飛びたつ方法だが、その他にもいろいろな楽しみ方がある。

◆モーターパラ
プロペラエンジンを背中に背負い、その"扇風機の力"によって平坦な場所からのテクオフも可能である。 また、その推進力によって、プロペラエンジンを回し続ける燃料が続く限り飛び続けることができる。

◆スキーパラ
山からのテイクオフでは、機体に空気をはらませるために走るが、スキーを使って走る代わるをするのがスキーパラグライダーである。もちろん最近流行のスノーボードを使って飛び立つ方法もあるが、スキー場によってパラグライダーを禁止している所もあるので、注意が必要。 また、機体に水分を含んでしまうので、きちんとしたメンテナンスが必要である。

◆トーング
グライダーと同じようにヒモで引っ張りパラグライダーを引き上げる用法。
山がなく、平らな場所から飛び立つのに有効な方法で、車などで引き上げる。オーストラリアの大平原などで飛び立つのによく使われ、飛び立ったあとはサーマルを利用し長い時間飛べるので一度はチャレンジしてみたい。

◆タンデムフライト
パラグライダーをやってみたいが、心配。という人や、本格的に始める前にその感覚を味わいたい人向け。
ベテランのパイロットが操縦するパラグライダーにパッセンジャーとして乗り込む方法で、パイロットのハーネスにくっつけられ一緒に飛ぶモノである。
このタンデムフライトで病みつきになり、鳥の仲間になる人が多い。

パラグライダーはなぜ、飛行できるのか?

パラシュートは「降下」するだけの道具であったが、パラグライダーは「滑空」することができるモノである。
では、なぜパラグライダーは「滑空(飛行)」できるのか?

それは、飛行機が飛行できるのと同じ原理が働いているからである。

パラグライダーのただの布にしか見えない主翼(キャノピー)に多くの秘密がある。 一言で言うとそのキャノピーは風をはらむことで飛行機の翼と同じ形になるのである。そのため、飛行機の翼の力学(ベルヌイの原理)がパラグライダーにも働くこととなる。その為、落下するのではなく、滑空することが可能となる。

◆ベルヌイの原理とは?
飛行機の翼のような形のものに前面から空気が流れると、その翼によって空気が上側と下側に分かれ、翼の後ろで再び一体となる。
そのとき、上側の方が距離が長いので上側の空気が速く流れようとする。
すると、圧力が低くなり、圧力の性質から高い圧力の方から低い圧力の方へ押し上げようとする力が発生する。これが、「揚力」である。

また、別の力として空気の流れと対抗する形で発生するのが「抗力」であり、これと「揚力」の合成力が「空気力」。この「空気力」と「重力」が釣り合う。(物理的に言えば)

「抗力」とつりあう力が発生し、この力の成分方向にパラグライダーは滑空できるのである。

◆なぜ、安定して飛べるのか?
振り子を考えてもらいたい。重りが左右に動いても必ず元の場所に戻ろうとする。これは、重力の方向に戻ろうとする力の為だ。

パラグライダーを考えてみよう。 鳥となる人が、パラグライダーの下にぶら下がっている形は、逆三角形をなしている。
その下側の頂点に一番重量のある人が乗っており、左右に振られても、元の場所に戻ろうとするため、パラグライダーは安定して飛べるのである。

◆対地速度・対気速度
パラグライダーは風の流れが必要であることを理解してもらったと思うが、では、風の相対的な速度を考えてみよう。
風のない日に車で走っているときは風を感じることも相対的な風の流れである。

例えば、30Km/hで飛行するパラグライダーを考えてみよう。
●風が無い場合
 パラグライダーは地面に対して30Km/hの速度で滑空する姿を見ることができる。


●風がパラグライダーに向かって30Km/hで吹いている場合
 パラグライダーは地面に対して+-0の止まって見える。

従って、パラグライダーの場合、飛んでいるとき、地上が止まって見えていても何の不安を感じる必要はない。
そのパラグライダーに対して相対的に吹く風の速度が問題なのだから...

●風が追い風で30Km/hで吹いている場合
 地上からみると60Km/hの速度で飛んでいるように見える。

風を味方につけよう!

風の力を利用して飛ぶパラグライダーでは、いかに風を読むか。いかに空気の流れを察知するかが楽しく安全なフライトを左右する。

◆朝・昼・夕の風
朝は夜に静かに冷やされた空気が沈着し、穏やかな風を生み出す。
やがて、日が出て昼になると太陽によって暖められ、空気が活発に動き出す。
そして夕方、地表は太陽の力を失いながら昼とは違った空気の流れを発生する。 これらの空気の流れを理解することで、目に見えない空気が見えてくる。

◆谷風
昼間太陽の力で山の斜面が暖められると上昇風が発生する。
谷から山側に吹く、これが谷風である。 この谷風は斜面が急であれば急であるほど強く発生する。

◆山風
夕方、日が沈むと山の斜面は急に地温が冷えはじめ、昼とは逆の谷に向かって吹き始める。これが山風である。
山風は山から谷に向かって吹く風のため、夕方からのパラグライダー飛行は困難な状況となる。

上昇風を見つける

パラグライダーでは、滑空比で示される沈下率で下降を続ける。
つまり、上昇する気流がなければ、跳び始めた所から下へ向かい飛ぶことしかできない。

しかし、上級者になると、何時間でも飛んでいられる。
これはどうしてであろうか?

◆サーマル
風の流れは鍋のなかの水と同じである。
暖められた水は上へ向かって流れる。そして、冷えて下へ流れ始める。

空気もこれと同じで、地表が太陽熱により暖められると上昇する。
これが、サーマル(上昇風)である。
サーマルは暖められやすい場所に良く発生するもので、アスファルトが敷き詰められた住宅街などや乾いた田畑、日の良く当たる山の斜面などに良く発生する。
逆に、森林や湖、川、日の当たらない斜面などでは、下降気流が発生する。

◆斜面上昇風
風が吹き、斜面に当たると当然斜面の上に向かって風は流れる。
これが、斜面上昇風であり、この斜面上昇風を利用してソアリングすることを「リッジソアリング」という。

いずれにしても、上昇風があれば、パラグライダーは飛び続けることができる。トンビが羽ばたかないで飛んでいられるように。